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である大腸菌と非常に近い関係にあることが判明している(図−1)。そこで、深海微生物の遺伝子発現の特徴をより明らかとするため、大腸菌の遺伝子発現における加圧応答システムを検討し、比較を行った。ここでは詳しい実験結果の記述は避けるが、これまで得られたデータをまとめると、大腸菌には深海微生物同様加圧応答する遺伝子発現と、加圧応答せず耐圧的に働く遺伝子発現が存在することが明らかとなってきている。そして興味深いことに、第3の圧力応答、加圧により失活する遺伝子発現(圧力感受性)が存在することが明らかとなった。表−2にこれらの結果をまとめ、一覧とした。
5.おわリに
考えてみれば、大気圧に適応している大腸菌において、圧力感受性的に働く遺伝子発現の仕組みが存在することは、極く当然のことのように思われる。しかしながら、我々の視点の座標軸を深海高水圧環境においた場合、これが生物進化の歴史の中で、新たに獲得した能力の1つであると納得することができるであろう。潜水調査船で、深海を旅してみると、出会う生き物遠の多くは、一部の魚類を除いてほとんどが原始的な無脊椎動物である。高度に進化した、ヒトや高等動物に出会うことはまずありえない(もっとも潜水調査船の内部を除いでだが)。それはこうした生き物遠は、1気圧下の環境に適応しきって

表−2 深海微生物及び大腸菌の圧力下における遺伝子発現しまっているからで、そのような深海環境では生命を維持することができないからである。

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筆者は、深海高水圧環境に適応した微生物の性質を遺伝子レベルで調べたところ、好圧性細菌には加圧応答する遺伝子発現システムが存在し、耐圧性細菌には加圧応答するものと共に、加圧応答せず耐圧的に働く発現システムも併せもつことを記述してきた。そして、大気圧下に適応している大腸菌においてもそれらの圧力応答機構は存在し、第3の圧力応答機構である、圧力感受性的な遺伝子発現の仕組みも存在していることを述べた。微生物における、このような3種類の圧力応答する遺伝子発現応答の仕組みを比較した場合、次のような生命進化の機構を提案することができる。すなわち、生命の発祥当初は加圧応答する遺伝子発現のシステムのみが獲得され、その後、生命進化が浅海、陸上世界へと進出するにともない、順々に、耐圧性システム、圧力感受性システムを獲得していったという考え方である。これを証明するためには、今後の膨大な生命進化に対する研究の蓄積を待たねばならないが、深海研究の重要性がますます認識されるようになったことは、間違いないであろう。
謝辞:東京工業大学名誉教授(現東洋大学工学部教授、海洋科学技術センター深海環境プログラム・グルーブリーダー)掘越弘毅先生のご指導に深謝いたします。本稿で述べた筆者らの研究は、海洋科学技術センター深海環境プログラムにて行われたものです。研究に携わっていただいた、研究スタッフ、技術員の皆様に感謝いたします。また、筆者を魅惑溢れる深海の世界に案内してくれた、海洋科学技術センター「しんがい6500」及び「しんがい2000」運航チーム、ならびに母船「よこすが」「なつしま」の船長を初めとする船乗員の皆様に感謝いたします。
参考文献
1)Kato,C., T.SatoandK. Horikoshi:Biodiv.Conserv.,4,1(1995).
2)Kato,C., N.Masui and K. Horikoshi:J.Mar. Biotechol.,(1996)印刷中.
3)Kato,C., M.Smorawinska, T.Sato and K.Horikoshi:J.Mar. Biotechnol.,2,125(1995).
4)Kato,C., M.Smorawinska, T.Sato and K.Horikoshi:Biosci. Biotech.Biochem.,60,166(1996).
5)Kato,C., M.Smorawinska and K.Horikoshi:

 

 

 

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